催眠について
催眠についての誤解
”催眠”について世間で大いに誤解されていることについて触れておきます。
催眠状態になると完全に自分の意識・コントロールを無くして全てを施術師に委ねてしまい、訳の分からないうちにセッションが終了する、と言った類のものです。
TVの催眠ショーの影響かもしれません。
タレントや芸人が、催眠術師に「鳥になれ」とか「猿になれ」などと指示されると、完全に操られているかのようにその真似をしてしまい、催眠を解かれると「アレ、自分は何をしていたんだろう・・」のようなリアクションをする、例のアレです。
誰しも一度くらいはテレビで観たことがあるのではないでしょうか?
別にあのショーをインチキだとかやらせだとか言っている訳ではありません。間違いなく催眠にかかっていると言えます。
ただあれを観た人の中にはどうしても上記のような誤解をする人が出てきてしまう、と言っているだけです。
催眠に関する本には必ず書かれていることですが、催眠中もちゃんと自分の意識はありますし、催眠術師の声も普通に聞こえます。
当然のことながら催眠中の記憶もきちんと残ります。通常の意識状態で本人のやりたくないことであれば、仮に催眠中に指示されたとしても即座に拒否します。
例えば、ナイフで人を刺せと指示されても絶対に従いません。その場ですぐに催眠から覚めてしまいます。
あくまでも本人が同意出来る内容でないと催眠中でも絶対に従わないのです。
催眠状態とは、分かりやすく言うと何かに極度に集中している状態のことです。
例えば、私たちがよく出来た映画やTVドラマに熱中している時、実は軽い催眠状態に入っています。
頭の中では当然作り物の世界だとは分かっていながらも、心臓はドキドキ、手に汗を握りながら完全にそのバーチャルな世界に入り込んでいます。
ヒプノのセッションでは、セラピストは時間をたっぷりかけてクライアントを催眠状態(変性意識状態)に誘導していきます。
体から力が抜けてどんどんリラックスしていき、最終的には体の存在を感じなくなるレベルに至ります。意識のエネルギーは全て自分の心に向けられます。
これにより、普段は見ることの出来なかった心の奥底(潜在意識)が顕わになってきます。
勿論個人差はあり、初回からいきなり深い催眠状態に入れる人と、回を重ねて出来るようになる人がいます。
催眠中も意識はあります
セッション中は過去生や子供の頃の自分に戻ってその場面をリアルに再体験しながらも、同時にそれを客観的、冷静に眺めている催眠にかかっていない、もう一人の自分が存在します。
この冷静・客観的な大人の自分が存在するが故に、当時の自分の体験を新たに解釈する(=学び・気づきを得る)ことが出来るのです。
仮に子供の頃の自分の認識に誤りがあれば、それを自ら修正する事が出来るのです。
子供は誰しも本来親の側に責任があることでも自分のせいにしているものです。
この罪悪感が大人になってからも潜在意識の中に残り、”心のブレーキ”になっていたりします。
こういった所謂、”認知の歪み”の元となった幼児体験を大人の冷静、客観的な目で見直すことが自分を赦し、解放することに繋がっていきます。
しかしながら、この催眠中でも覚醒している自分がいることで、中には、「自分は催眠にかかっていない」と感じる人も出てきます。
あるいはセッション中にその体験に没頭出来ずについ余計な事を考えてしまったりする人も出てきます。
ヒプノセラピーの大家、ブライアン・L・ワイス博士は、著書の中でセッション前にクライアントさんに以下のような説明をすると述べています。
「催眠中に出てくるものが想像の産物なのか、それとも幻想なのか、シンボルのようなものなのか、それとも実際の記憶なのか、気にしなくてもいいのです。ただ、それを体験して下さい。
自分が体験していることを頭で判断したり批判したり解釈しないで下さい。ただそれを体験しましょう。判断は後で出来ます。
しかし今のところはただ体験していればいいのです。」
ワイス博士のような催眠の世界的な大家でも、事前にこのような説明をしておかないとクライアントさんは覚醒している方の意識でつい余計な事を考えてしまうんですね。
また、日本の催眠の大御所、九州大学名誉教授の成瀬さんは、
「全ての催眠は自己催眠である。」
と仰っています。
催眠には自己催眠と他者催眠の二つが存在します。
自己催眠とは文字通り自ら催眠状態に入っていくもので、他者催眠とは他人に催眠をかけて貰うものです。後者の方がより深く入ることが出来ます。
ですが、他者催眠であったとしても、つまるところ自己催眠であり、自ら催眠に入ろうとする努力無しには催眠状態に入ることは出来ないのです。
ここでまた、冒頭のTVのバラエティ番組の催眠ショーに話を戻しましょう。
件のタレントは、当然の事ながら事前の打ち合わせで番組の内容は理解しています。そして当日台本に沿って粛々と収録は進行していきます。
大勢の観覧者の前で、そして無数の人がTVで観ている中で、タレントは自分に期待されている役割を十二分に理解しています。
タレントは人を喜ばせてなんぼの商売です。催眠に掛かって猿や鳥の真似をするのもそれを喜んで受け入れているからです。周りの期待に応えるべく進んでその暗示を受け入れています。
素人が壇上に上がって催眠術に掛けられるようなショーの場合でも、本人が壇上に上がっている時点で、その後に起こること、すなわち催眠にかかり見世物になって観客を楽しませるという”筋書”を受け入れていると言えます。そして本人もそれを楽しんでいます。そもそもそういうエンターティナー気質の人しか壇上には上がりません。
催眠術とは術者と被験者との共同作業であり、ヒプノセラピーもこの点において催眠ショーと基本的に変わりはありません。
クライアントさん自らの催眠に入っていこうとする努力、何かを積極的に思い出そうとする努力無しにはヒプノセラピーは成り立ちません。
催眠ショーでの催眠術師はただ観客の受けを狙っているだけですが、セラピストはセッション中、ガイド役としてクライアントにしっかりと寄り添い、ニュートラルな立場から癒しや気づきのお手伝いをさせて頂きます。
繰り返しになりますが、催眠中であっても本人の意識はありますし、本人の選択権が優先します。本人の意思に反することは絶対にやりません。しゃべりたくないことを無理やりしゃべらされることもありません。仮に指示されても拒否しますし、あるいは催眠から覚めてしまいます。勿論催眠中の記憶も残ります。
ショー催眠のせいでどうしても”催眠”には胡散臭いイメージが付きまといがちですが、ヒプノセラピー(催眠療法)は決してそのようなものではありません。
あるいは、まるで魔法にかかったかのように、”催眠”から目覚めると全く違う自分が勝手に出来上がっている、といった類のものでもありません。(案外これを期待して来られるクライアントさんが多かったりします)
ヒプノセラピーとは、自分の心に徹底的に意識を集中し、自分の抱えている問題の根源をきちんと理解し、認知の歪みがあればそれを正し、学びや気づきを得る行為です。その結果、心は癒され軽くなります。
セラピストは、ニュートラルな立場からクライアントが自ら学びや気付きを得る、そのお手伝いをさせて頂くだけです。
どうぞ安心してヒプノセラピーを体験して下さい。